1.はじめに
70年代後半の作品には画面構成上のアクセントとして身近にあった「BOX」を撮影し、これを用いた。
80年にかけてこのようなタイプの作品を発表した。脇役だった「BOX」が自分の中で気になる素材となり、主役のモチーフに変わっていった。
「BOX」を作品の中心に描くようになったとき、周囲からは閉ざされた世界と評された。
★1983Mr.Box
●1983Miss.Box
●1983Mr.Box&Miss.Box
2.作風
シルクスクリーン印刷の作品である。
70年代と同様に写真製版で表現したが、シルクのメッシュは以前以上に細かいものを使用した。
全体を柔らかい優雅な曲線でまとめた。「BOX」の存在感を引き立てるようにした。
1987年4月:モダンアート協会展入選―東京都美術館モダンアート協会主催()
モノクロに近い表現のせいか銅版画と勘違いする人が多い。
3.製作意図・テーマ
「BOX」は四方八方壁体に囲まれた閉ざされた空間である。暗く静かで守られた空間である。
これは「BOX」の内側に自分をおいたときの感情である。多分、孤独や孤立なども感じさせるものだろう。
しかし、その「BOX」の外側に自分を移動させ、「BOX」を手に取ったとき、「BOX」は別の存在になる。
「BOX」は他人からの贈り物、未知の世界・希望・夢でもあるが、恐れや不安もある。
人は好奇心がある故にRibbonをほどき蓋を開け、中に何が入っているか確かめたい感情に駆り立てられる。
自分を見つめられる場所と未来を求めるロマンとを表現できたらと思う。
4.テーマ設定理由
バブルの終焉をむかえ、経済的にも市民社会全体が陰鬱な時代に変わっていった。お金が絶対的な価値の尺度であった。大規模倒産のニューズは、数を重ね、リストラや就職難の現実は、身近な問題となった明るいニュースは少ない。箱のリボンをほどいて、ドア(蓋)を開き、未知のモノと出会う経験を提供したかった。
5.社会的背景と立場
1985年頃から始まったバブル景気で世の中はうかれていた。しかし、1990年を境に、旧坂を転がり落ちるように、バブルは崩壊していった。長くて暗い平安の時代が始まった。実家は横浜市の中心部商業地区にあり、少なからず、地価高騰と急激な下落の余波を受けていた。
6.作品内容(モチーフの説明)
イメージしたのは帽子の箱である。実際に用いたモチーフは、ジュエリーBOX ザ・ギンザ資生堂のものである。
手の平にのる程小さいものだった。帽子の箱では本体とふた、そしてRibbonの中のバランスが当たり前すぎて面白味がないのではと思った。
モチーフ選択は成功したと思う。
7.作品技法
シルクスクリーン印刷の中でも、写真製版主体の作品である。メッシュを細かくしたためデリケートな表現が可能となったが、
印刷中に網目が詰まることが多く苦労した。「箱」の外側に文字をのせた。「箱」部分も網目印刷のため白抜き文字では曖昧なことから、白インクを「箱」にのせる方法をとった。
8.発表団体と発表場所
1986年10月:グループ展―横浜万国橋画廊(横浜館内)
1987年4月:モダンアート協会展入選―東京都美術館モダンアート協会主催()
1987年9月:モダンアート明日への展望展―横浜市民ギャラリーモダンアート協会主催()
1987年9月:神奈川県美術商店協会賞―市民ギャラリー(横浜館内)
1987年10月:グループ展―横浜万国橋ギャラリー(横浜館内)
1988年4月:モダンアート協会展入選―東京都美術館モダンアート協会主催()
モダンアート協会回遊推挙、モダンアート協会に所属
9.おわりに
写真撮影や写真製版の技法を使って空間構成に集中した。単色に絞ることで形や空間の仕事に終止することができた。しかし、その後モノトーンや写真の表現に味気なさを感じ、表現に限界を感じるようになっていった。